語順と主語
「りんご 太郎 たべる」
上の文を読んで何を想像しましたか? 「太郎がりんごを食べる」のを想像しましたか? それとも,「りんごが太郎を食べる」のを想像しましたか?
あなたはきっと,「太郎がりんごを食べる」のを想像しましたね。 それは,日本語を母語として話す人は語順よりも一つ一つの単語の意味を重要視するからです。 それに対して,英語を母語とする人は,語順を頼りに文の意味を捕らえようとします。
英語は,語順で主語と目的語がどれか分かるので,単語の意味によって主語と目的語が入れ替わることはありません。 「名詞+動詞+名詞」とあると,最初の名詞はいつも主語です。
それに対して日本語は必ずしも主語は文頭には来ません。「りんごを太郎が食べる」のように目的語が文頭にきたり,「太郎がりんごをたべる」のように文頭に主語がきたりします。
したがって,日本語話者は「〜を」や「〜が」などの助詞を手がかりにしてどれが主語でどれが目的語かを判断します。 また,口語表現においてはこの助詞自体も省略され「りんご,太郎,食べたんだって。」などのように一つ一つの単語の意味からどれが主語かを判断する必要があります。 簡単に言うと,英語話者は語順で主語を判断し,日本語話者は意味から主語を判断するのです。
それでは,そんな日本人が英語を学ぶときどのように主語と目的語を判断するのでしょう。 また,日本語を学ぶ英語話者はどうしているのでしょう。
Harrington (1987)によると,英語を学ぶ日本人は主語を日本語と同じように意味から判断するとのことです。 したがって,この判断の仕方は英語のネイティブスピーカーの判断の仕方とは異なっています。
一方,日本語を学ぶ英語話者は,日本人と同じように,意味から主語を判断します(Yoshinori, 1991)。 英語を話すときは語順に頼って主語を判断するにもかかわらず,日本語を話すときはうまく日本語のネイティブスピーカーと同じ方法で判断できるのです。
その点では,英語を学ぶ日本語話者よりも,日本語を学ぶ英語話者の方が簡単に主語と目的語を判断できるです。 このことは,外国語学習における非対称性をよくしめしています。
ここでいう非対称性とは,A言語をはなす人はB言語を話すのが難しいからといって,B言語を話す人がA言語を話すのが難しいとは限らないことをさしています。
それでは,なぜ英語話者は日本語において主語を意味から判断でき,日本語話者は英語において主語を語順から判断できないのでしょう。
これは,第一言語習得における,意味と語順の関係によく現われています。 英語話者による,語順による主語の判定は,生まれてすぐの赤ちゃんができるわけではありません。その前に別の段階が存在します。
言葉を話し始めて間もない小さい子供たちは,主語を判断するのにその名詞の意味を手がかりにすることが分かっています。 "Milk drinks a cat" などの文は,英語を話す小さい子供には,「猫がミルクを飲む」と解釈されます。 やがて,その子供は語順によって主語が決まるというルールを憶え,本当は"Milk drinks a cat" は「ミルクが猫を飲む」の意味だと解釈できるようになります。
ここで言える事は,意味による主語の判断は語順による判断よりも簡単ということです。 したがって,英語話者は簡単に意味による主語の判断ができますが,日本語話者はなかなか語順による主語の判断ができるようにはなりません。 ずるいといえばずるいのですがそうなんだから仕方のないことですね。 今回はそんな主語と語順の関係についてでした。
Harrington, Michael, 1987, Processing Transfer: language-specific processing strategies as a source of interlanguage variation.Yoshinori, Sasaki, 1991, English and Japanese interlanguage comprehension strategies: an analysis based on the competition model, Applied Psycholinguistics, 12, 47-73
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