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『これ』,『あれ』,『それ』,『どれ』など, あるものを指示する言葉を『こそあど言葉』といいます。 英語では"this", "that", "it" などにあたるものです。
結構,簡単に見える『こそあど言葉』ですが,実はネイティブスピーカーのように使えるようになるにはかなりの練習を必要とします。
「え,でも "this" て『これ』って意味で "that" って『あれ』って意味じゃないの?」と疑問に思う人もいますよね。 そのとおりです。 私たちは,中学高校と英語の授業で「"this"は『これ』の意味で,自分に近いものを指し示すときに使う」,「"that"は『あれ』の意味で,自分に遠いものに使う」と教わってきました。
でも、本当にそんな簡単なのでしょうか? 例えば,「それ」と「あれ」や"it"と"that"の違いはうまく説明できますか?
<例> ア:山田君見ました? イ:あの/その人ならあっちの方に行きましたよ。
A: I got a million dollars! B: This/That/it is wonderful !
日本語の教科書では,『これ』,『あれ』,『それ』は話し手と聞き手の距離によって使い分けると説明されています。「これ」は話し手に近いもの,「それ」は聞き手に近いもの,「あれ」は話し手と聞き手の両方から離れているものに使うと説明されています。
この説明は,『物』を指し示している時には,うまく行きますが,指し示しているものが『事』になると,この説明ではうまくいかないことが出てきます。
田中:大学時代の木村さんをごぞんじですよね。 佐藤:ええ,知っています。 あの人とは高校時代からの友達です。 田中:じゃあ,婚約なさったこともご存知ですね。 佐藤:えっ,それは知りませんでした。 どんな方ですか。あの人の婚約者は。 (Niimura & Hayashi, 1994)
上の文中には『それ』と『あの』という言葉が使われています。 『あの人』という表現は確かに会話をしている二人には遠い存在ですから『あの』を前の説明にしたがって選ぶことができます。 しかし,『それ』というのに距離が関係しているとは思えません。 『婚約なさったこと』というのは,実在している物ではないので,距離を測るわけには行きません。
では,どのように私たちは『それ』がいちばんこの場合適していると判断するのでしょう。
Niimura & Hayashi (1994) によると,Kinsui & Takuboモデルは,私たちは『これ』と『あれ』は直接の経験をした事をさすときに使い,間接的に聞いた話などには『それ』を使うとのことです。 さらに,指し示すのが『物』になるときは,話し手と聞き手との距離関係による選択が優先されるそうです。
したがって私たちは,まず指し示すものが『事』か『物』かを判断し,『事』の場合は自分で直経験したかどうか,『物』の場合にはどういう距離にあるのかを考えて『こそあど言葉』を使っているのです。
では,外国人が話す日本語の場合『こそあど言葉』はどのように使われているのでしょう。
迫田(1997)によると,日本語学習者(韓国語,中国語話者)にとって,『それ』と『あれ』の区別がいちばん難しいようです。 これは,学習者がKinsui & Takuboモデルなどの説明を学習時に受けることなく,従来の,『距離』による説明しか受けていないことによるとも考えられます。
さらに,学習者は『それ』と『これ』の使用を後ろに来る名詞の種類によって使い分けているとのことです。
学習者は,後ろに来る名詞が抽象名詞のときは『それ』を,具体名詞のときは『あれ』を使う傾向があります。
そんな,間違った判断をもとに学習者は『それ』と『これ』を使い分けるのはなぜでしょう? 日本人のネイティブスピーカーは後ろに来る名詞によっての使い分けをしてるのでしょうか。
実は私たちは後ろに来る名詞のことまで考えてはいません。
ところが,私たちはそんな使い分けはしていないにもかかわらず,結果として,学習者には後ろに来る名詞によって使い分けているように見えるのです。 実は,確率的に後ろに来る名詞が抽象名詞のときは『それ』の使用率が高く,具体名詞のときは『あれ』の使用率が高くなっています。
したがって,学習者はそんな表面的な傾向をそのまま受け取り,『それ』と『あれ』を使い分けていたんです。
面白いですね。 外人さんもしっかり日本人の『こそあど言葉』の傾向と対策を練って,使ってるんですね。 ちょうど,マークシートテストを受ける時の心得みたいな。
そういえば,昔,『数学のマークシートテストには,ルートの中は2か3がいちばん確率的に多いから,迷ったら2か3んにしろ!』みたいなことをどこかで教わった憶えがあります。 迫田久美子,1997,日本語学習者における指示詞ソとアの使い分けに関する研究,第2言語としての日本語の習得研究,1,57−70Niimura, Tomomi & Hayashi, Brenda, 1994, English and Japanese demonstratives: A contrastive analysis of second language acquisition, Issues in Applied Linguistics, 2, 211-238
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