浜松における日本語英語ピジン

 

ピジン使用の社会的背景

 

アメリカ空軍が日本における航空自衛隊のトレーニングプログラムを設立するためにアメリカ空軍仕官とその家族が1955年から2年間,静岡県浜松市に滞在する。 その主な任務は航空自衛隊をサポートし飛行トレーニングおよびテクニカルトレーニングをアドバイスことであった。

 

浜松市は名古屋から110Km東に位置し,人口20万人(当時)の海に面した都市である。 アメリカ軍軍人の滞在以外には,3つある小さなキリスト教教会に外国人の滞在者がいるのみで,外国の施設は一切存在しない(当時)。 主に,アメリカ軍人は特別に用意された宿を使用し,家族と共に来た軍人たちは郊外にある葵町にある家を借りて生活をした。 

 

葵町は農家,小さい商店,製造工場があるのみで,日常の生活に日本語は欠かせなかった。

 

アメリカ人と日本人の間には,お互いがもっていた固定観念が存在したものの,戦争中の感情はさほど気にせずに,お互いの新しい友人たちのもたらす文化を楽しんでいたようである。

 

アメリカ人は「そろばん」,「いけばな」,「酒」などを楽しみ,日本人はアメリカ人が持ってきた「シェイビングクリーム」,「チューイングガム」,「缶入りのソフトドリンク」を楽しんでいた。

 

 

ピジン使用の範疇

 

ピジンは主に限られた場面でのみ使用されるが, 浜松におけるピジンは主に「買い物中」,「酒場」,「間借り中の家」,「スポーツ中」,「仕事中」,「友好関係作り」などに使用された。

 

 

浜松ピジンの構造

 

多くのデータが無いために細かい構造は分からないが,いくつかの主な特徴が挙げられる。

 

@ 反復

例.  testo-test:     調べる, 分析

     meter-meter:  見る, テスト

    saymo-saymo:  似ている

    hubba-hubba:   急ぐ

    dammey-dammey:  だめ

 

ハワイにおけるピジンにも, 同じように「反復」が使われているので, この構造はアメリカ人によるピジンに対するイメージからきている可能性がある。

 

A 簡略化

浜松におけるピジンに限らず, 文法的要素の簡略化はピジンに普遍的に見られる性質である。 浜松ピジンにおいては以下の簡略化が用いられた。

 

A 冠詞の省略

  英語に存在する定冠詞, 不定冠詞は省略された。

 

B 時制の省略

  時を表す方法は「アシタ」, 「キノ」 などの 副詞を動詞の後ろに使用することによって表現された。

 

C 動詞活用の省略

  動詞は活用されることなく, 原形がそのまま使用された。

 

D 主題+コメント

  文の構造は, 日本語と英語の文構造に従うことなく,主題とコメントという シンプルな構造をもっていた。 

 

これらの簡略化の構造は, 外国語学習における中間言語の最も初歩的形であり, 浜松ピジンもこの構造をとったと思われる。

 

B 発音の日本語化, 英語化

英語と日本語の発音の違いにより,単語は本来の発音からずれ,日本人は日本語の音韻学に基づいた,アメリカ人は英語の音韻学に基づいた発音を使用した。 その結果アメリカ人がピジン語に使用する言葉は英語なまりになり,また,日本人の使用する言葉は日本人なまりの発音が使われた。

 

<主な日本語なまり>

-  /r/ と /l/ の「ラ行」による代用

-  二重母音/ei/ の 「え」による代用

-  子音で終わる単語への母音「う」または「お」の付けたし

したがって /beisbol/ が /besuboru/ となる。

 

<主な英語なまり>

-  母音で終わる単語の子音化

   /sake/ --> /sækiy/

 

ピジンの発音はここで終わることなく,やがて,日本語なまりでピジンを話す日本人の中にも,英語なまりの発音を採用しピジンを英語なまり的に話す者がでてくる。 同じようにアメリカ人の中にも,子音で終わる単語の後に「お」や「う」を付けて発音するものがでてくる。

 

C 単語の使用法

  ひとつの単語が本来の使い方とずれて使用されたり, 多くの使用法を持っていたりする。

  例

  This you speak sayonara?

     君が無いと言っていた物はこれ?

 

  アメリカ人の主婦がメイドに対して, 夕食の残りを捨てるように伝えるのに, 残り物を指差しながら,

  ”Pailu sayonara it.”    

   pailu = pile  積み重なったもの

    

  ”Denki up” = 「電気装置を設置しろ」, 「回路をつなげろ」

                          「電力を上げろ」

 

  ”Shipai nai” =心配ない, 楽しもう, どういたしまして, 元気になった

  ”Okay” = いいよ, なおす, ちょうせつする

  ”mo sukoshi” = あとで, しばらくあと

  

 

 

Goodman, John Stuart, 1967, THE DEVELOPMENT OF A DIALECT OF ENGLISH-JAPANESE PIDGIN, Anthropological Linguistics, 9:6, 43-55

 

 

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